ピーマンの袋を手にしたとたん、律子は性交がしたくてたまらなくなった。「何」をではなく、「何故」でもなく、「今」「ここ」でヴァギナに何かを入れなければ気が狂うと思った。どろっ、と音がして自分の体液でショーツがゆっくりとぬれていく不快感が下半身からのぼってきた。
荒荒しくドアをあけ、自分の部屋へ、「巣」へと帰る。どこを通って帰ってきたか分からなかった。ただ、「ここ」へ帰ってきた。「ここ」には「思い出」があふれていた。まだ、「彼」のにおいが残っている「彼」と律子の「巣」だった。「彼」の不在が逆に自分を性交へとかきたてた。びっしょりと湿ったショーツを脱ぎ捨てベッドに倒れこんだ。白く汚濁した体液がついたショーツが床に落ちた。律子は、狂ったように性器をかきむしり絶頂を極める。もう、「何」も「誰」も「何故」も、どうでもよかった。ただただ、絶頂へとたどり着くこだけを考えていた。
頭が真っ白になったあと、また「思い出」に浸った。「彼」の接吻、「彼」の手の愛撫、「彼」の舌が自分の下半身に触れる瞬間。ふと、思いつき買い物に持っていったままのハンドバッグをあけ、自分の携帯電話を取り出した。発信音のモードを振動へ変えた。避妊用のゴムをとりだし、携帯電話にかぶせた。これも「彼」のお仕込みだった。手のひらでゴムにつつまれた携帯電話をすり上げる。濡れそぼったヴァギアを律子の指で開き、ゆっくりと入れていく。完全にヴァギナで携帯電話を包み込み、左手で受話器を取り上げ、右手で自分の番号を押し込んだ。微弱な振動がもどかしい。もうこんなことでは先へ行けなくなってしまった自分のからだが恨めしい。なにもかも「彼」のせいだ。。。帯電話をつかみ自身の中へピストン運動を打ちこんだ。
すべてが終わった後、律子は一人でまた部屋にいることを認識した。こんなことではいけない。いつも「行って」しまった後に自己嫌悪する。「何時」も「何処」も「何故」も「何」も、消え果た地平の先に「彼」への激しい憎悪を発見する。「時間」も「思い出」も「あなた」も消えてまっくらになるのをまち、裁ちバサミを手に律子は部屋を出ていった。